萩原枯石先生句碑建立
百千鳥エジプト文字の詩あれは 枯石
囀やほどくすべなき藤の蔓 あや子
萩原さんは旧制足利中の教壇に長く立ち、富田中学校で退職した。三十歳代から俳句を始め、同人誌を創刊したり、自ら句集を出版するなどしてきた。現代俳句協会会員でもあり、多くの受賞歴がある。
妻のあや子さんも同人誌などで活躍していたが、昨年四月、八十九歳で亡くなった。アヤさんの死後、萩原さんは鎮魂の気持ちから句碑の建立を思いついた。
二人には名草巨石群や厳島神社(通称・名草弁天)周辺で詠んだ句があった。九年前に息子を亡くし、悲しみを忘れるために俳句に没頭していたころ、名草を訪れ共に鳥を題材にして詠んだ「競詠」となった。
「百千鳥(ももちどり)エジプト文字の詩(うた)あれは」。萩原さんの句は宮城県加美町の現代俳句加美未来賞入選作で、春にさえずる多くの鳥はエジプト文字のように美しいが、不可思議だと詠んだ。
アヤさんの「囀(さえずり)やほどくすべなき藤の蔓」は、自由な鳥のさえずりと、ほどけない不自由なつるを対照的に詠んだものだ。
句碑建立に当っては旧制中学時代の教え子や神社関係者らが多方面で協力した。
除幕式の出席者らは「思い出の地に夫婦の句が一緒に並べられ、本当に良かった」と目を細くしている。
(平成二十年五月五日 「下野新聞」)
○ 百千鳥エジプト文字の詩あれは
ペーパーの語源であるエジプト(三千年の昔から)のパピルスに、描かれた画がパピルスアートである。
それは古代エジプト人と「魔除けの図」に、エジプト文字が画面いっぱいに書かれたものである。
エジプト文字は、文字というより絵である。それは美しい絵である。この文字は読めないというわけではない。実は日本の「いろは」に対応させることも出来るのだが、誰にも読めるというものではない。
掲句は、エジプト文字はとても美しい。だがどういう事が書いてあるのかわからない。百千鳥(囀)の声は美しい。すばらしく可愛い。だがどういう歌なのだろう。わからないなァ――というのである。
(枯石 記)
○ 萩原枯石(本名・萩原八十吉・九十七歳)